かわらばん

株式会社AGORA
かわらばん地域版101号 2026年3月 地域企業紹介

株式会社AGORA

人がつながり、小さな挑戦が地域を動かすコミュニティの創造へ

コワーキングスペースの運営や起業を目指す方などに向けたイベント・相談会などを行う株式会社AGORAの長谷部信樹CEOを、町田にあるコワーキングスペース“BUSO AGORA”に訪ねました。

 人々が集まる場所は文明の進化と共に、水資源、交易の要衝、城壁都市、工業都市へと姿を変えてきた。現代では利便性だけでなく、価値観や体験を共有できる“選ばれるコミュニティ”が求められ、SNS等の仮想空間との融合も進む。こうした「人が自然に集う場」の本質を象徴する古代ギリシャ語のάγορά(広場)を社名に掲げるAGORA社。現在は5つのコワーキングスペース運営を通じ、多様な人々が集まり新たな価値が生まれるコミュニティづくりを実践している。

 1990年代のバブル経済崩壊を機に、日本での創業支援は普及啓発や資金面の制度的支援から始まった。やがて支援は、コワーキングスペースの整備やコミュニティ形成といったソフト面も組み合わせた複合的な形へと移行し、官民が連携して整備・運営するプロジェクトが急増した。さらにデジタル化やニーズの多様化、イノベーション重視の潮流を背景に、政策はスタートアップ重視へと本格転換していく。そこでも重視されているのは、起業家同士の交流や専門家とのパートナーシップ形成である。個人の経験だけでは補えない知見を共有し、激しい市場変化に対応するための「共創の場」には、起業家のみならず企業や資金供給者、法務等の専門人材や行政も引き寄せられている。こうして制度・場・人材が重層的に結びつき、起業家を継続的に育む“エコシステム”が形成されつつある。

 AGORAが運営する「BUSO AGORA」は多様な人や事業者が自然に集まり、交流から新たな挑戦が生まれる場づくりをコンセプトとして2019年に町田で開設された。その後、首都圏でme:rise TACHIKAWA、AGORA KGU-KANNAI、AGORAHon-atsugiのコワーキングスペースもプロデュース・運営受託し、昨年には既存の運営事業者から運営を引き継ぐ形でSPRAS青葉台の受託運営も開始。地域に根ざした拠点を広げてきた。各施設はカフェのように開放的で居心地がよい空間でありながら、1名用個室やブースも備え、集中作業やテレワークに適した機能性を併せ持つ。また、テーマ型ランチ会や交流会などが定期的に開催され、利用者同士がつながりやすい設計となっているほか、法人登記・会議室利用など、実務面でのビジネス利用にも対応している。

 AGORA社の事業は「場づくり」と「創業支援」の二本柱で、創業相談や実務知識の提供など、起業の初期段階から継続的に伴走する支援が特徴である。それを支えるのがインキュベーションマネージャーとコミュニティマネージャーであり、特にコミュニティマネージャーは起業家同士や起業者と専門家・事業パートナーとの関係性を築く重要な役割を担う。拠点を増やしながらも、AGORA 社が掲げるミッションは一貫して「ローカルにsmall good business を生み出すこと」。スタートアップと言えば、最新テクノロジーや独自的なビジネスモデルで急成長を目指すスタートアップをイメージしがちだがAGORA 社は異なる。地域を自らの手で活性化したいという志を持つ起業家をメインターゲットに据えているのだ。

 長谷部氏は鳥取県日野郡出身。法律の道を志して高校卒業後、地元を離れ関東の大学に進学した。在学中は社会や制度のあり方に関心を持ちながら学びを深めていた。その時期に小さな焼鳥屋でアルバイトを始める。アルバイト先が多店舗展開する過程を間近で見た経験が、事業の成長や組織づくりへの関心へとつながった。「一度ビジネスの世界に身を置いてみたい」という思いが芽生え、迷いと期待が入り混じる中、そのまま就職を決意した。

 20 代は現場で働き、30 代は会社の体制作りに注力した。バックオフィスの立ち上げ、財務管理、人事部の設立、新卒採用の開始、労務改善などを担当。労務面では、社員の労働時間を50% カットするなどの改革を行った。就職したころは個人事業主のお店だったが、やがて法人化。㈱キープウィルダイニングとなり、さらに成長を続けた。気づけば10 年も在籍していた。

 その後新規事業開発部門に異動し、BUSO AGORA の立ち上げに関わることになった。さらに、施設計画は東京都のインキュベーション施設運営計画認定事業の基準を満たし、認定を取得したことで創業支援拠点としての歩みが本格的に動き出した。専務取締役を務めていた長谷部氏が中心となって推進してきたコワーキング事業が分社化され、㈱AGORA が設立。代表取締役CEOとして経営に、また、インキュベーションマネージャーとしての創業支援などの業務にもあたっている。

 社会情勢の変化を背景に急増したコワーキングスペースは現在も緩やかではあるが増加の傾向にある。しかし、家賃と人件費の負担が大きいというコワーキング運営事業に共通する収益構造は、経営者の手腕を問うものとなっている。無人経営で固定費を圧縮し、売上を伸ばした事例もある中、AGORA 社は自ら掲げた理念を追求する。人が集まるリアルな場所には、場を温め、人と人をつなぎ、チャンスを逃さない目利きとアクションがなければ、やがてその場所は集まる意味を失う。その役割は“人” が果たすものでなければならない。これは、1 つの場所を徹底的に磨き込んで得られたAGORA社のスタイルである。さらにAGORA 社は、理念である「ローカルにsmallgood business を生み出すこと」を広げるべく、鳥取県を含む山陰地方で創業支援の取り組みを進めており、近い将来、支援拠点開設も視野に入れた動きを始めている。

 地域の力を生かす持続可能な事業こそ真にフォーカスされるべきだという長谷部氏の信念。その実現のために、起業家を成長させ、事業をはぐくむコミュニティを創り上げようとする強い意志が、AGORA 社の活動を支えている。いま、国や自治体も裾野の拡大、地域創業、スモールビジネス、そして伴走・共創・市場形成へと政策の軸足を移し始めており、時代は確かにその方向へ動き出している。そうした潮流の中で、AGORA 社のその歩みは、ローカルから未来を紡ぐ鼓動として熱を帯び、鳴り響き続けていく。

代表取締役CEO: 長谷部信樹(はせべのぶき)
事務所所在地 : 東京都町田市原町田6-9-8AETA町田4F
従業員数    : 20人
事業内容    : コワーキング運営・プロデュース事業
URL      : https://www.agora-localincubate.com/

企業紹介の記事をもっと見る

最新の記事