かわらばん地域版98号 2025年9月
【第3回】これからの企業経営に必要なこと~ウェルビーイングの“その先”を見据えて~
これまで2回にわたり、ウェルビーイング経営とは何か、そしてそれをどう実践していくかをご紹介してきました。最終回となる今回は、その“先” にある、これからの企業経営について考えてみたいと思います。
今、私たちは先の見えにくい時代を生きています。少子高齢化による労働人口の減少、価値観の多様化、テクノロジーの急速な進展…。こうした環境変化のなかで、企業に求められる役割も、そして経営のあり方も、大きく変わってきました。
かつてのように「正解」を模倣していれば成長できた時代は終わり、いまは「自社にとっての意味ある問い」に向き合いながら、“自分たちらしい答え” を探し続ける時代に入っています。そんな時代において、一人ひとりの力が活きる組織づくり=ウェルビーイング経営は、中小企業の持続可能性を高めるための有効なアプローチだといえるでしょう。
ウェルビーイング経営とは、単に“社員にやさしい” 会社を目指すものではありません。人の強みを活かし、関係性を育み、組織として自律的に進化していく力を高めるための基盤づくりです。目の前の「働きやすさ」や「福利厚生」を整えることにとどまらず、組織が未来に向かって進むためのエンジンとして、社員の幸せと企業の健全な成長を同時に目指していくのです。
たとえば、事例でご紹介した企業のように、組織の現状を可視化し、経営層が本気で向き合い、社員と共に試行錯誤を繰り返す企業は、たとえ壁にぶつかっても、そこから学び、また次に向かって動き続ける力を持っています。これは、不確実性が高まる現代において、極めて重要な「組織のしなやかさ(レジリエンス)」といえるでしょう。
さらに、ウェルビーイング経営は、社員の幸せだけでなく、顧客や地域社会との関係性をも豊かにする視点を持っています。自社の存在意義を問い直し、「誰の、何の役に立っているのか?」を言葉にすることで、社員が誇りを持ち、顧客からも信頼される企業文化が育まれていきます。
つまり、ウェルビーイング経営とは“内向きの人事施策” ではなく、経営全体の質を高める戦略であり、組織の未来を形づくるための土台なのです。
中小企業には、大企業にはない柔軟性とスピード感があります。トップの想いや理念が現場に届きやすく、社員の声を迅速に経営に反映できるという強みもあります。その利点を活かして、一人ひとりが「自分らしさ」を活かしながら働ける組織を目指していく。それこそが、これからの時代の中小企業に求められる経営の姿ではないでしょうか。
これからの時代に必要なのは、「人と組織がともに育つ経営」。
「うちにはまだ早い」そんなふうに感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、ウェルビーイング経営は、難しいことから始めなくていいのです。まずは社員との対話から。まずは、自社の“いま” を見つめることから。一歩踏み出すことで、会社の空気が、少しずつ変わっていくはずです。
〇 漆間 聡子 〇
中小企業診断士、ポジティブ心理学コンサルタント、国家資格キャリアコンサルタント、
経営情報修士(MBA)
株式会社B-nO Consulting 代表取締役
ポジティブ心理学を経営に取り入れたウェルビーイング経営の実践を通じ、企業の成長と社員の幸福度向上に貢献することを使命として、2019年に株式会社B-nO Consultingを設立。前職では文系SEとして、主にFA(ファクトリーオートメーション)や組込システム開発に従事。ダブルワークでSE時代にキャリアカウンセリングを行い、実績を重ねてきた。ビジネススクールで経営学を学び、「人」を中心に据えた企業経営を提唱している。
株式会社B-nO Consulting 代表取締役 漆間 聡子 氏