光学機器や半導体装置などの部品に意匠性や機能性を付与する表面処理を行う東栄電化工業株式会社の山本茂樹社長を、相模原市中央区小町通の相模原本社工場に訪ねました。
工業製品などの表面には物理的または科学的な影響などに対する抵抗力、いわゆる「耐久性」が求められ、カメラや時計、デザイン商品などは表面の質感・色・仕上げが「所有する喜びや使う楽しさ」に直結する。よく知られている表面処理は防錆や装飾のための塗装加工である。多くの表面処理技術が産業革命以降、量産技術と共に進化を果たしている。表面に別の金属の薄い層を電気的または化学的に被覆するめっき処理もその一つであり、また、電解処理によってアルミ表面に酸化皮膜(アルミニウム酸化物)を形成するアルマイト処理は1920年代に日本で発明された技術だ。東栄電化工業はこれらのめっきやアルマイト処理技術で、精密部品や複雑形状部品などの試作から量産を行っている。今や1000社を超える企業の“新価値創出における表面処理技術のパートナー” として、光学部品をはじめ、多様な分野で用いられる特殊部品の表面処理で日本のものづくりを支えているのだ。
東栄電化工業は2025年1月、“低反射アルマイト” の開発で「神奈川工業技術開発大賞(特に優れていると認められる技術等に対して授与される賞)」を受賞した。それまでアルマイト処理で耐熱性や超硬質、耐摩耗性といった機能を持たせるため、それぞれに多段階の処理工程を経て狙った仕様や品質を実現させ、経験に裏打ちされた熟練の技術で顧客のニーズに応えてきた。特に色の再現性が厳しく求められる商品には、同社の強みが発揮されていた。一方で、新しい技術の柱を生み出すべく、そのテーマを模索していた時、とある顧客から「赤外線を吸収する特性」に関する相談を受けた。また、取引が多い光学・精密機器分野において、レンズ筐体やカメラ部品の内部構造で、写真や映像に余計な光が写り込んでしまう現象を解消するという技術課題も顕在化しつつあった。いくつかの従来技術ではそれぞれに欠点があり、それらを乗り越える新しい技術が必要となる。市場を見渡せば車載用センサーや光学検査装置、産業用のレーザー加工機でも低反射が誤検知防止や精度向上、安全性の確保につながることも分かってきた。検討を重ね、「アルマイト処理で低反射特性が出せれば、うちの独自技術となって競争力を強化できる」と、社内の熱量は上昇した。2020年には東京理科大学との共同研究を開始し、従来の低反射アルマイトに加え、“紫外光~可視光~赤外光” までの広い波長域で光を吸収し、それぞれに特徴の異なる3種類の低反射アルマイトの開発、実用化に成功。現状、低反射表面処理技術の主流はめっきや塗装による処理で、表面に物理的な凹凸をつけて光を吸収させるものだが、表面がもろいため、時間の経過や摩耗、紫外線・熱によってめっき層や塗膜が劣化し、粉塵が発生することがある。低反射アルマイトは表面そのものを改質することで粉塵の発生は劇的に少なくなる。そもそも、複雑な形状であっても部品の内面にも処理が可能であることから、粉塵の発生を抑えた低反射素材として展示会などでPR したところ、各方面からの問い合わせが寄せられ、確かな手ごたえが感じられた。新分野でのシェアの獲得とさらなる市場開拓に向け、量産体制を整えるべく、東栄電化工業は動き出した。
東栄電化工業は山本一雄氏(山本茂樹社長の祖父)が個人事業として東京都目黒区で創業したのが始まりである。もともと一雄氏はめっき処理の会社に勤務していたが、その会社が廃業となり、外注先をなくした取引先からの要請に応えたのだ。経理畑での経験が長かった一雄氏は当時、信州大学医学部で学んでいた長男の泰朗氏(茂樹氏の伯父)を呼び寄せ、共に仕事にあたった。医学部中退という苦渋の決断をした泰朗氏は大学の夜間部に通い、応用化学を学びながら家業の仕事と両立させたという。1956年に株式会社東榮電化工業所(現 東栄電化株式会社)として法人化、そして1972年、現在の相模原本社工場の地で、アルマイト処理を全自動で行う設備による量産体制を整えた東栄電化工業株式会社が設立された。1986年には相模原本社工場内にフープ式金めっき処理装置を導入し、コネクタ端子部品の連続加工を開始、2006年には岩手県一関市にも工場を開設した。現在では相模原本社工場でアルマイト処理と化成被膜を、一関工場はフープ式金めっき処理、東栄電化目黒工場はアルマイト処理の一部を担っている。茂樹氏は2004年、泰朗氏から「明日から社長だ」と言われた。それまで東栄電化工業の専務として経営にあたっていたが、突然の宣言にはさすがに驚いた。ただ、今となっては一族らしい事業承継だったと振り返る。アルマイト処理やめっき処理には環境対策が求められる昨今、化学薬品や重金属、化石燃料の使用量の低減に積極的に対応する同社。高温多湿になりやすい処理工程だが、相模原本社工場は処理施設の冷却システムや換気・排気システムを導入、作業環境をよりよくすることで、現場スタッフの働きやすい職場づくりは、「社員と共に成長し続ける会社」の基本でもある。
外部環境の変化に適応するため、直近では大手企業のOBを取締役に迎え、また、技術や営業部門でも外部人材を幹部として登用し、立案した組織戦略を実行している。「皆が最大限に能力を発揮できることが大事」と語る茂樹社長の思いは、昔と変わらない実直な社風となって脈々と受け継がれている。深層が隠れた本質であり、表面を“見える部分” と捉えれば哲学的なニュアンスを帯びるが、東栄電化工業にあてはめれば、「内側(深層)にはひたむきな挑戦、外側(表面)に生み出されたのが新しく、独自性のある技術」とすればしっくりとあてはまる。2026年にグループ70周年を迎える同社。100年企業・1世紀企業を目指し、表面処理のスペシャリストとして、今、まさに飛躍の一歩を踏み出したところだ。
代表取締役社長: 山本茂樹(やまもとしげき)(写真中央)
事務所所在地: 神奈川県相模原市中央区小町通2-5-9
(相模原本社工場)
従業員数: 140 人(正社員80 人、パート社員60 人)
事業内容: 金属表面処理
(アルマイト加工、コネクタ端子の金メッキ など)
URL:
https://toeidenka.co.jp/