かわらばん

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かわらばん地域版4号 2009年8月

企業をサポートし隊No.4 中小企業のカイゼン支援活動
   第2回:4S と基本技能 株式会社カイゼン・マイスター 代表取締役社長 中小企業診断士・法政大学大学院客員教授 小森 治
 私どものクライアント(顧客)は、業種は極めて多岐にわたっています。また生産形態も一品料理の個別生産から反復生産の多種少量生産に至るまで実に変化に富んでいます。
 但し、「4S」と「基本技能」については、業種や生産形態に関わりなく共通の課題ですので2回目はその話から始めたいと思います。

○4Sとハインリッヒの法則
 ハインリッヒの法則とは、「労働災害」の事例の統計を分析した結果、1件の重大災害の裏には29件の軽傷災害があり、300件のヒヤリ・ハットがあると言うものです。4Sについては、この法則がそのまま当てはまります。
 例えば、工場にゴミが少々落ちていても忙しさにかまけて「まあいいや」という風土になっていると、「安全や品質のヒヤリ・ハット」を見過ごすことに繋がり、やがて重要品質問題や重大災害を発生させる要因を作り出していることになるからです。我々がカイゼンの前提=カイゼン前のインフラ整備として、まず4Sを重視するのはこのためです。4Sの中でも特に重要なのが「整理・整頓」の2Sです。
 「整理」とは、必要なものと不要なものを区別して不要なものは思い切って捨てることですが、不要と判断して捨てる場合は、大概トップの判断を必要とするので社長に決断してもらうことが必要ですし、場合によっては親会社に確認することも大事です。N社の2次仕入先のTN社では、親会社から「もしかしたら使うかもしれないから保管しておくように」と言われて「試作型」を長い間大量に保有していたが、私から「量産以後も試作型を保有する理由」をよく確認するようにアドバイスしたところ「全く不要である」ことが分かり全部廃却処分した結果、隣の借りていた倉庫も返却することができました。
 「整頓」は、物の置場(所番地)を決め、誰でも「そこに何がある」ということが分かる状態に(見える化)して、必要な物を誰でもすぐ取り出せるようにすることです。実際に色々な現場を見せていただくと、作業者が治具・工具や部品などを探すことに時間をかけているが、このことが案外
見過ごされています。従ってこの2Sを徹底するだけでも、在庫が減り、探す時間が減り、生産性は大いに改善されます。

「基本技能」の重要性→全社共有の財産に!
 「彼はベテランだから彼がいないとその仕事ができない」とか、同時に「ベテランの仕事を誰でも出来るようにしたい」という経営者のご意見を伺うことが多くあります。これは、多くの会社において「ベテラン作業員の知恵が個人に特化している」ことの証拠です。
 ところで、ベテラン=熟練技能者が、仕事が早く正確にできるのには2つの要素がある。1つは長年やっていることによる「慣れ」の部分と、もう1つは先輩の仕事ぶりを見て良い点を盗んだり、自ら長年の試行錯誤を通じて身につけた「合理的なやりかた」の2つの要素から成り立っています。即ち「ベテラン=慣れ+合理的なやり方」という公式です。ところで、「時間は動作の影」という言葉通り、作業時間の差は「慣れ」よりも「動作の違い」による部分の方が圧倒的に大きいと言うことが実証されています。
 従って目指すべき目標は、いたずらに手足を早く動かすことではなく、「理にかなった効率的な動作=ベスト・プラクティス」を身につけることです。
 これに関して最近では、従来「暗黙知」と言われた「基本技能のカン・コツ」をビデオなどの動画を使い「形式知」化して、分かり易く身につけられるツールが開発されています。
 トヨタが2003年にGPC(技能訓練センター)を作り、そこで開発した「ビジュアルマニュアル」がその例ですが、そのようなものがなくても市販のビデオをうまく使うことによって十分目的は達成できます。「ベテランの知恵」をこのように「見える化」することで、従来「個人に特化していた知恵」をさらに磨きあげて「全社共有の財産」にすることがまず手がけるべきことではないだろうか。
 全社的に多能工化を展開するためにも「基本技能の正しい習得」は必要なステップです。
 次回(3回目)は、トヨタ生産方式で言う「徹底的なムダの排除」について触れます。
お楽しみに!