かわらばん

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     専門家コラム
かわらばん地域版69号 2020年11月

最近よく聞く「創業支援」とは?
   第1回 創業支援の必要性とその背景
昨今、官民問わず、多様な“創業支援”が盛んに取り組まれています。このうち、SICのインキュベーション活動も、事業を開始してからの“伴走支援”が主な支援活動となっています。様々な経営課題に対して、インキュベーション・マネージャーや専門家などがサポートする体制を整え、円滑な課題解決のための支援スキル向上に日々邁進しています。

 そこで、本特集では、『最近よく聞く「創業支援」とは?』と題し、創業支援とは何のために、どのようなことが行われているのか、3回にわたって紹介していきます。その第1回目となる今回は、まず政策としての創業支援の必要性や背景について考察していきたいと思います。

◇なぜ創業支援?◇

 経済の活性化により税収を増やし、公共サービスなどを充実化させることを通して社会をより豊かにすることは、国や地方自治体が担う役割の1つです。具体的な施策として、研究開発を支援する補助金や、民間金融機関よりも条件が優遇された制度融資などが挙げられ、活用されている方も多いと思います。そういった施策の中で、新しい製品を作りサービスを提供することを、ゼロから事業を始める人、つまり「創業者」に担ってもらうことを期待しているのが“ 創業支援” です。経済活動の多くは、株式会社などの会社や個人事業主といった民間事業者が担っています。将来にわたり国内経済の力をつけていくためには、民間事業者を増やし、かつ成長し儲かる事業者を増やしていくことが重要で、そのために行政も創業に関する支援を行っています。
 とは言え、創業支援にどれだけの成果が期待できるかと言えば、一部では円滑に創業期を乗り越える事例はあるものの、全体としては制度自体の限界や支援者スキルのバラつきなど、課題も山積みとなっているのが実態です。

◇創業の難しさ◇

 日本の中小企業の6~7割が赤字決算を出していることからも、創業者が事業を軌道に乗せることの難しさが想像できます。業歴があっても、黒字決算を出すために相当な努力が必要となる中、ヒト・モノ・カネといった「経営資源」が少ない創業者において、事業開始後すべてが順調に進むということはごく稀なケースです。『中小企業白書2017 』によれば、欧米諸国よりも日本の方が創業後5年後の生存率が高いというデータ( 日本で81.7% 、欧米諸国はおおむね40%台。調査方法の限界で、日本は実態より高い調査結果との注釈あり)もありますが、そもそも日本では創業自体が少なく、創業コストの高さやリスクを嫌う気質などに要因があるようです。

 このような中、諸外国では創業者を創出するための施策が功を奏している事例もあり、日本でも様々な創業促進のための施策が打ち出されてきました。創業への動機づけを目的とした先輩創業者のセミナーや事業計画策定のための講習など、より実務に直結する内容に充実化されています。ただ、今後はもう一段階ステージを上げるため、創業促進と創業後の伴走支援を一体的させ、多様な創業者の目線に立った支援メニューをスキーム化し、実践を重ねていかなければなりません。そのためには行政や支援機関、支援者がそれぞれの役割を明確にし、成果が期待できる仕組みづくりと支援リソースの底上げが課題と言えます。

 今回は創業支援全般について取り上げました。次回は、実際の支援活動について、収益面が中心となった事業計画の策定にとどまらないセミナーや講習、ベンチャー企業向けの専門的かつ実践的な支援事例などを紹介いたします。


片山 寛之(かたやま ひろし)
事業創造部 インキュベーション・マネージャー
2009年にSICに入社。主に入居企業支援を担当し、マーケティング計画や資金計画など、事業全般に関する相談対応や伴走支援に取り組んでいる。2017年、JBIA(日本ビジネスインキュベーション協会)のシニアIM に登録。中小企業診断士(2008年登録)。
片山インキュベーションマネージャー