かわらばん

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     専門家コラム
かわらばん地域版61号 2019年5月

優れた事業構想とはどのようなものか
   企業をサポートし隊シリーズ -専門家編-  浜銀総合研究所 顧問・特任コンサルタント、 SIC経営塾コーディネータ 寺本 明輝 (明るく輝く)
 2002年6月から始まった『SIC経営塾』は、今年3月に『第17期S I C経営塾』を終えました。『S I C 経営塾』では、経営の理論を学ぶだけではなく、自社の経営の実践に活かすことを第一義としているため、最終回では、多くのコメンテーターの前で自社の事業構想を発表していただいています。

 そこで、過去の『SI C経営塾』を通して、1 5 0件を超える事業構想を拝見させていただいた経験から、優れた事業構想の条件について述べてみたいと思います。尚、“優れた” 事業構想とは、戦略の構成要素がロジカルに整理され、形式的にもプレゼン資料がビジュアルに表現された、いわゆる“格好いい”ものを指していません。たとえ、“不格好”であっても、「自社の存在意義(目的)に基づいて実行して成果を出すことにつながっている」ものを“優れた”事業構想と位置づけて考えていきます。

1.ストーリーとして語られている

 優れた戦略について、楠木建氏は著書で、「戦略を構成する要素がかみあって、全体としてゴールに向かって動いていくイメージが動画のように見えてくる」 と述べています。
 
 面白い小説は、そのストーリー展開に読者がワクワクするように引き込まれていくものです。同様に事業構想も、社員を含めた関係者の心を突き動かすものでなければ実行につながりません。従って、事業全体を俯瞰的に捉え、自社の現状から将来の姿までの道程を時間軸に沿ってどのように歩んでいくのか、といったストーリーの有無が問われます。

2.エビデンスに裏付けされている

 事業構想のストーリーは、単なる夢物語であってはなりません。実行につなげるためには、リアリティが必要です。そのためには、ストーリーを構成する各要素において、出来るだけエビデンスを用意することです。エビデンスの例としては、過去の実績・導入事例、権威者の評価、科学的根拠、顧客の声、統計調査などがあげられます。

 従って、事業構想は、社内外のデータ収集、あるいは現場での観察、実験、仮説検証などから定量的事実・定性的事実を積み重ねて、物事を考え、議論して構築されたものでなければなりません。

 極端に言えば、自社の事業構想の名前を同業者に変えても、違和感を覚えないような事業構想は、差別化、独自化が考え抜かれていないと言わざるを得ません。

 戦略のエッセンスは、他社と違うことを行うこと、あるいは同様の活動を他社とは異なる方法で行うことです。すなわち、戦略とは、唯一無二の存在になるために、自らの経営行動の力点、優先順位を決めることであり、徹底的に、“○○らしさ”を突き詰めたものでなければなりません。

4 .トレードオンの関係を成立させている

 事業活動は、経済性と社会性を両立させるために、様々なステークホルダーとの協働が必要になりますが、必ずしも各ステークホルダーの利害関係は一致するとは限りません。実際、品質とコスト、機能性とデザイン、顧客満足と利益、配当と内部留保など、限られたリソースの中で、トレードオフの選択を迫られる意思決定は悩ましいものです。

 しかし、果たして本当に両立し得ないものか、と問い直すことが必要です。そもそも、誰かを犠牲にしてしまうような事業構想では、持続性のある経営は実現できません。一見トレードオフと考えられる関係を短期、中長期といった時間軸の視点から考え抜くことで、トレードオフの関係を解消してトレードオンの関係を成立させる試みがイノベーションの創出につながるからです。

 仕事や組織に対する愛着の程度や心理的距離であるコミットメントは、組織のパフォーマンスに大きな影響を与えます。従って、事業構想は、“やらせ、やらされ”ではなく、“やりたい”という強い動機を醸成するものでなければなりません。事業構想を自分事として、「我が社は」「私は」といった主語で語り、実行に対する責任を持てるようになっていることが重要です。

 流行のキーワードをちりばめたような無味乾燥なフレーズを並べたり、単に目標を羅列したりしたものでは、社員をはじめとした協力者の理解と共感を得ることは出来ません。そのためには、数値や理屈ではなく、社員の気持ちや組織風土にも十分配慮したものでなければなりません。

 環境という風向きは、自らの力では、なかなか変えることが出来ません。しかし、帆の張り方は自らの力で変えることが出来るはずです。

 今年6月から第18期のSIC経営塾が開講します。もしよろしければ、ご一緒に帆の張り方を考えてみませんか。