かわらばん

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     専門家コラム
かわらばん入居版65号 2009年9月

企業をサポートし隊!!
   シリーズ企画 企業支援の現場から・・・デザイナー編
 これはただの四角い枠です。「この四角い枠に何か書いて下さい。」と言われるとどうでしょう。今ちょうど何か書きたくて仕方がなかった珍しい衝動の持ち主か、適当に○を書いてくれるその場からはやく立ち去りたい人なら困惑することなく何かを書いてくれそうですが、何を書いて良いのやら困ってしまう人がほとんではないでしょうか。これは要求されていることが自由すぎて何もできない状況です。
 では、「これは6畳の間取り図です」と冒頭に加えるとどうでしょうか。この枠のスケールがわかり、それを加味して何か思いつくかもしれません。そして「自由に生活用品を配置した図を書いて下さい。」と言われてやっと自由に書ける人が出てくるかもしれません。さらに「玄関は右側です」「右側が東です」「フローリングです」「3階です」「築10 年です」「ベランダありません」「家賃は月2万円です」「下に怒りっぽい大家さんが住んでいます」などと条件を加えていくと、もっと枠の中に何かを書ける人が増えるはずです。

制約という自由

 私たちは様々な制約のもとで活動しています。制約というと堅苦しくて身動きがとれないイメージですが、時としてこの制約こそが知性という翼を自由にはばたかせてくれます。トランプにせよ54 枚のカードに私たちは様々な制約を与えて遊びます。さらにはその中に駆け引きまで生まれ、大勢で夢中になることはよくあることです。
 私のデザインの仕事では物理的な制約の他に、状況に応じた「たのしい制約」を設定します。よく「コンセプト」と呼ばれているものですが、これを設定することでそのデザインのムードやアイデンティティが生まれたりします。この「たのしい制約」をお客さんとの情報交換から導き出し、丁度いい制約ができた時の喜びとそれを実現できたときの達成感がたまらないのです。
 「自由にデザインして下さい。」と頼まれることがありますが、「四角い枠に何か書いて下さい。」と言われたときのように困惑してしまいます。そんな時は、お客さんと「たのしい制約」を決めることにしています。
 さて、四角い枠には何か書けたでしょうか?