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かわらばん地域版86号 2023年9月

中小企業における”人財マネジメント”のホットな情報
 最新の中小企業景況調査を紐解くと、コロナ禍から景気回復の兆しが見え始めた2021年以降、全ての業種で急速に人手不足感が高まっている様子が読み取れます。外国人やデジタル技術の活用など、さまざまな施策が実行されてはいるものの、少子高齢化が急速に進展する中、抜本的な改善の兆しは見えにくい状況です。特に中小企業においては、限られた人財(人材)をどの様にマネジメントし最大限に能力を発揮してもらうかが大きな課題と言えるでしょう。このコラムでは、現代の経営に役立つ新たな人財マネジメントの方向性について情報をお届けできればと思います。

 現代主流の人財マネジメント手法の基礎となる考え方は、20世紀初頭、アメリカの経営学者フレデリック・テイラーが提唱した「科学的管理法」に基づくと言われています。簡単に説明すると、いかに労働者をサボらせず働かせるかという観点から、分業化を進め業務量と成果を徹底的に数値管理するというマネジメント手法です。この手法の拡大は、これまで管理者の主観的な成り行き任せが主流であった人財マネジメントを改革し、様々な産業の生産性向上に大きく貢献しました。一方で、当時から行き過ぎた管理は労働者の自由と権利を制約し、懸命に働くことを半強制する仕組みであるとの批判も受けていました。

 昭和から令和へ働く人の価値観が変化するのに合わせて、人財マネジメントの手法も変化が求められています。ワークライフバランスやウェルビーングの追求といった価値観が広がりを見せる現代において、従来の“科学的管理” のみでは経営者と従業員の理想のギャップは広がるばかり。また、インターネットの普及により人財市場の流動性がかつてないほど高まっている中で労働者が職場に感じた息苦しさは、離職や採用難という形で会社に跳ね返ってくるでしょう。

 では、現代の価値観にマッチした人財マネジメントとはどの様なものでしょうか。そのヒントとなるのはGoogle 社が2015 年に発表した調査結果です。同社は莫大な資金と4 年の歳月をかけて「プロジェクト・アリストテレス」を実施し、高い生産性(パフォーマンス)を発揮する組織(チーム)の条件を導き出しました。結論を要約すると、組織を構成する一人一人の個人能力よりも、組織の協力関係が生産性を左右するということ。協力関係には、“心理的安全性” を土台としてメンバー同士の信頼関係が築かれ、仕事の役割や意義を理解できていることが必要だということでした。この“心理的安全性” とは、メンバー同士が自身の評価に怯えることなく自由に意見を言い合える関係のことです。

 つまり、生産性の高い会社組織づくりにおいては、人財マネジメント制度の設計以前に、リーダーである経営者を含め従業員同士の“心理的安全性” の確保、信頼関係の醸成が効果的なのです。

 持続的に業績の良い企業は、経営者と従業員が一丸となって同じ目標に進んでいます。理想的な人財マネジメントを実現するために、まずは、従業員とストレスのない対話の機会を増やし、将来ビジョンを共有するところから始めてみてはいかがでしょうか。信頼関係の向上のための取り組みが、来期の業績を大きく変えるかもしれません。

〇 奥村 直樹 〇
湘南労務経営 代表
公的中小企業支援機関の現場で10年以上にわたり多種多様な企業の創業支援・経営改善支援に従事し、独立開業。「人を活かし、人を育てる経営」の実現をサポートするため、経営が分かる社会保険労務士・労務が分かる中小企業診断士として活躍する。
湘南労務経営 代表 奥村 直樹